一草庵


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十二月句

顛末の板書の文字の寒さかな
問ひ掛けを置き去りにして冬座敷

花魁の爪に垢ある年の暮
ほのぼのと夜の明けそめし賃餅屋

鴨をらず店を閉めたり湖北宿
おでん酒おぼろに唄ふ第九かな

長葱の白きを買うて蕪村の忌
葱を切るしぐさも慣れて異邦人

風が吹きまた風が吹き冬木かな
どこからも大山見える冬の宿

狸汁かこみて笑ふ密売人
横顔に少し傷有る牡蠣打女(かきうちめ)

とりあへず生きるつもりの日記買ふ
冬草に命の色を貰ひけり

枯野行く列車の煙なつかしき
尼寺を尋ねて行くや枯野なか

水鳥の動けば揺るヽ日の翳り
水鳥や日差し求めて二羽走る

留守番の少女ひとりの焼芋屋
黒光りするストーヴを捨てられず

袖口にチョークの跡や日短か
家族無き女教師のくさめかな

繰り返すポルカの店や師走めく
洋菓子屋みな売りきれて冬木立

枯芝の広がつてゐる美術館
枯芝やプールの水は抜いてあり

枯芝のひろがる庭に富士遠し

冬蝶を空の青さに見失ふ
ボストンの赤煉瓦街山眠る

虎落(もがり)笛モンマルトルにも吹いてゐし
フォアグラやトリュフも出てはくさめせず

うす曇りロンドンのそら漱石忌
狐火やスコットランドの霧深し

升(のぼ)さんと言ふ声聞ゆ漱石忌
虚子が又電信放つ漱石忌

医師ひとり孤独に耐えて山眠る
日向ぼこ背ナの薄さに見ゆるもの

定まらぬ日和の中の師走かな
初雪に釦うしなふ月曜日

葎枯れぽつりと見えし一軒家
枯菊をその侭にして侘び住まふ

いぢ悪な次女が尾を踏む竈猫
竈猫をんな主人の言ふままに

枯菊をそのまま残す寺ひとつ
京の路地声も師走となつてきし

古寺に障子職人らしき人

月島や残れる路地の年用意
この路地に住み二十年虎落笛

日短か小石を投げる須磨の浦
舞ひ上がる風はま冬の独り言

江戸からの人棲みてゐる冬座敷
無住寺や村人つかふ冬座敷

息白し携帯電話早口で
短日や御堂筋には人の列

曽根崎や句会も兼ねて年忘

手袋のま白き少女ハンドベル
クリスマス貧しき家にも灯りけり

古暦絵だけを残すことも有り
冬眠と言ひて碁を打つ怠け癖

山眠る右から左大文字
南座のあたりにも有る聖樹

顔見世に待ち合す場の灯の乏し
顔見世で二人の顔を見られたる

短日の西鶴の碑や寺通
近松忌近くて遠き文楽座

古文書をひろげて狭き冬座敷
何もかも中途半端や年暮るる

手袋を脱がぬロシアの別れかな
十二月やはらかき手の別れかな
 ReDel
Name 管理者
十一月句

針替へて冬に入りたる蓄音機
ブラームスのピアノソナタや冬に入る

やはらかな風に尖りし落葉散る
図書館の灯の消されつつ落葉踏む

ヴァイオリンソナタの更ける落葉の夜

柊(ひいらぎ)のこぼるヽ花に無口なり
花柊匂へば記念写真かな

落葉焚すこし残れる花の色
ここよりは京へ三里と落葉径

冬めきぬ運河の橋に灯点れば

石蕗の花暮れ残りたる城の町
一村の身構へてゐる熊注意

人の世に争ひ絶えず炉を開く
炉開きの日は決めずとも晴れた日に

山茶花を大事に剪りて茶会かな
山茶花の散るも散らぬも風まかせ
山茶花や早やこの庭も暮れかかる

木枯に余呉湖の碧(みどり)深まりぬ
木枯や伊吹の里も色づきて
木枯に山道くだる賤ヶ岳

猿沢の池を眺めて日短か
鹿の声ひとをも恋うて鳴く夜かな

秀長の見果てぬ夢や初時雨
ひと気無き柳生の里の冬紅葉

朝寒や閉めた侭なる奈良格子
裏町や木枯にまた墨匂ふ
熟し柿みやげに買うて元興寺

里の女の守り伝へて亥の子餅
亥の子餅くばる少女の赤き頬

立冬に古き銀貨のこぼれけり
立冬を木彫のマリア見て過す

木枯に少女は軍人めきて立つ
木枯に人形劇の仕度など

風除や空の低さに日本海
みなと町酢茎を売りて朝の市
城下町行商人の秋日和

里人の言葉短き冬日和
桜島けむり変はらぬ冬日和

落葉踏み平家の墓のたそがるる
安徳をまつる阿弥陀寺落葉降る

初冬や湖畔のホテル椅子ひとつ
シャガールのポスターあせししぐれ宿

茶の花や障子の影に動くもの
悩み事うちあけず過ぎ帰り花

知る人の顔ちらつきて花八手
しのばるる娘も三十か花八手

初しぐれエアーポートの立ち話し
時雨るるや別れを告げるエアポート

小春日や人も車も淀屋橋
枯葉舞ひ公会堂の落成す
初冬に聖堂尖る青き空

帰り花かへらぬ人を思ふとき
ジャズピアノのみ響きをる冬酒場

七五三姉らしきあり妹も
秋日和少し変はりし母校訪ふ

冬晴の雲うごかずに有りにけり
切干の唄なつかしき頃となる

芭蕉忌や恩師の笑顔ふと浮かぶ

石蕗咲いてここを棲家と定めたる
裏木戸を閉めて明るき石蕗の花

祖母がまた一つ見つけし帰り花
猫たちも屋根にひそみぬ初時雨

勤労を感謝する日と言はれても
交番に財布を届け冬ぬくし

荷を解けば書類に混じる木の葉髪
北窓を塞ぎ仏間に眠りけり

人混まぬ寺を探しぬ冬紅葉
梵鐘の谺してゐる冬紅葉

冬晴や得度の僧の眉太き
老鷲を見る学僧の眼の優し

敗訴して後は小春に身を任す
 ReDel
Name 管理者
十月句

モディリアニの女の首や秋の声
藍色のセーター似合ふ人で在り

くちびるを恋ひしと思ふ蜜柑かな
秋風や猫の戻らぬ三日間

終電車日毎に秋の貌となる
吾子の手の両手に余る林檎かな

秋天や船籍見ゆる風の中
倫敦の煉瓦塀にも秋の声

紅葉して廃業近きレストラン
秋晴や乗るだけで良し湖西線

ここもまた野菊の墓と教えられ
静御前そこだけ枯れて菊人形

浅草や観音寺に菊添へる
葡萄棚あくまで晴るる甲府かな

災害の後もがんばる運動会
秋晴れて今日は人出の散歩道

赤い羽根のみの飾りを着こなせる
毒茸見惚れてゐしが違ふらし

火祭の出町柳の人出かな
火祭に牛若丸もあらはれぬ

東山また去来忌のきたりけり

密教の山しづまりて薄紅葉
有馬湯は坊の名多し夕紅葉

秋の雨 和解話のまとまらず
ひつそりと初穂の揃ふビル谷間

うそ寒し日曜の夜ひげをそる

櫨の実の色濃くなりて教会堂
それと無く寝息たしかむそぞろ寒

出張は飛騨路のあたり秋の声
秋晴といへど放せぬ蓑と笠

天高しバス一時間待つてをり
城下町バス停待てば木の実降る

小鳥来てベンチに置かれある聖書
みづうみの画布に群れ来る小鳥かな

秋風や巴里の思ひ出くりかへし
胡桃割る土産の道具さがしけり

秋冷に耳朶うすきカメオかな
柿日和また訪うてゐる三千院

ひと日づつ桜紅葉を待つてをり
ここにまあ尼寺の有り初紅葉

このままでゐたき時あり薄紅葉
二服目を断りそこね薄紅葉

観光の人にぎはふも秋の声
船頭の顔のきびしき京紅葉

どの色も形も違ふ散紅葉

木の葉髪ゆめを求めし櫛に有り
寝転んで吊し柿見る子規のこと

裏町に小さき社もみぢ燃ゆ
映画館出て末枯(うらがれ)の野を帰る

秋祭子供の頃の晴舞台

里祭かなしと思ふ老いの笛
酒蔵の白壁よぎる秋御輿

古時計ねじ巻けばまた秋の声

妻ぽつり厨もどりて秋の声
同窓会菊日和にて終る

猪の母と仔の出る住宅地
釣人の携帯ラヂオ秋日和

松手入松の姿の現らはれぬ
烏瓜さげて遊ばん寺の子と

芦刈も小さき川であればこそ
秋高し影なき庭の水前寺

鵯(ひよどり)の姿見えねど声続く
敗荷(やれはす)や夢年毎にうしなひし
 ReDel
Name 管理者
九月句

秋蝉の転調止まりたるところ

頤(おとがひ)の尖る娘や千草売
歌麿忌バレエ教室灯の明し

惑星の一つ消えたり秋扇
冥王星見た事も無し守武忌

西鶴忌なぢみし人と別れけり
飴売の宿を立ちけり土佐の秋

明月に話題のそれる長電話
名月の庭に出たるや寺男

寝遅れて更待月を見たりけり

甲斐の月かがやけばまた影の濃し
何匹か知れぬちヽろや草の闇

二百十日なほ高気圧強ければ

台風の七ツ道具はしまはれず
台風のごとに玻瑠戸はみがかれず

訓練の役立たずして秋出水
どう見ても九月が良ろし震災忌

秋あかね群れ飛ぶ中の遍路かな
木戸閉めてふりかへりつつ秋遍路
秋草を触れず過ぎ行く遍路かな

ゆくり無く野分の川となつてきし
荒き声吹き飛ばされし野分川
野分してちぎれし草の命かな

秋扇日差を避ける芸妓かな
忘れたるはずの扇が友の手に

草の花そへて料理となりにけり
古伊万里に活けて落ち着く草の花

朝霧の暗さに紛れ湯女帰る
かる口の出る西鶴忌をみなへし

ふるさとに似たる道あり虫鬼灯
秋すだれ目印にする雑貨商

下町の神父の見上ぐ鰯雲
露けしや修道院のマリア像

コスモスの捩れしままに咲きにけり
勝負終えコート掛け寄る秋桜
コスモスの色乱れ咲く出勤路

木犀の匂へる道の乳母車
撫子を折らんとすれば寺の鐘

糸瓜棚くれなゐに見え子規思ふ
月明に一駅歩く子規忌かな

旧友は有り難きもの鰯雲

松虫や面影橋といふ駅に
乗客の覗いてゐるや葉鶏頭

増上寺かみから生姜市となる
あらためて人を恋ふ日や鰯雲

夜学の灯教師の影のせはしなく
大都会ここにも夜学の灯がともる

病みてなほ消すに消されぬ夜学の灯
淀川の鉄橋べりや虫の声

食欲の無きまま迎ふ秋彼岸
露の世を死者と語るや曼珠沙華

父と子とそれぞれ学ぶ夜長かな
突発事ばかりの時代夜なべする
パソコンにメールの知らせ夜の長し

秋の灯の障子に狐鳴く日かな
秋草の伸び放題の寺通

日の当る祠(ほこら)ほど咲く葛の花
刈萱を指でかき分け狐塚

文楽を見て帰りみち鰯雲
秋の空をとこをみなの頼り無し

書き損じばかりの文やきりぎりす
地図見ても山霧深し丹波路は
虫の名を当て合ふうちに寝入りけり

里人の見入ること無き鰯雲
朝霧が雑木の山をかがやかす

山荘に鉦叩あり静かなり
小雨来てふいと止みたる鉦叩
鉦叩仕事をせよと言ふ如く

ジャズ聞いてマンハッタンの露の夜
夜長かなスクリャービンを聞き終へぬ

名月に戸の鎖されある服喪
ロンドンに沈鐘ひとつ獺祭忌

資料館出て城下(しろした)の水澄める
与一塚に寄り添ふ如く女郎花

来年に残すもの無し夏帽子
虫の音も聞き納めかも故郷捨つ
 ReDel
Name 管理者
八月句

今はただ墓参の日々の続くのみ
岐阜提灯まはし時代も回りけり

回るたび顔立ち照らす走馬灯
地震(なゐ)といふ記憶消したき走馬灯

ひぐらしや借りたるものは返さねば
蜩やロシアの墓碑は読みづらし

夏つばめ家まばらなる古ホテル
有りどころ一つ見つけし夏燕

いつまでも毎日ゝ髪洗ふ
冷奴主食にしたる一ヶ月

太平洋戦史を追ふや原爆忌
小雨降る原爆忌とはなりにけり

朝顔やのろのろと来る新聞屋
夕立を気にせぬ子等の甲子園

草市や巧くは立てぬ馬多し
盆仕度余所に寺の子本読める

何となく口ずさむころ踊唄
旧街道宿客ひとり花槿(むくげ)

山道や幾人欠けて墓参
土佐訛り懐かしきかなカンナ燃ゆ

送火は所詮ひとつのレクイエム
大文字油小路の暗さかな
送火の早や暗うなる京の路地

空港に混み合うてゐるサングラス
熊楠の随筆を読む夏休

朝顔に光源氏の風がある
鎌倉の海を眺めるサングラス

この辻も地蔵の盆のあるらしく
こんなにも地蔵の有りし地蔵盆

朝顔をほめて始まる佃島
向島飛ぶが如くに大文字草

遠花火両国橋のあたりかも
音も無くただゝ続く遠花火

星月夜ここらは築地明石町

くらやみに鬼灯鳴らす女かな
ひぐらしに明日といふ日を忘れをり

稲妻を思ひ描くや閨の中
手花火の始末をしての別れかな

朝顔と早起き比べしやうにも
朝顔のただ一日の命かな

朝顔のつぼみの乏しうら長屋
炎天下わすれた事は忘れたり

須磨寺に句碑たんと有り秋暑し
古寺に異人の墓や秋暑し

朝顔に挨拶をする誕生日
かなゝにふと手を止めてショパン弾き

初秋は雲の動きにあらはるる
ふらんすの詩をつぶやきて今朝の秋

新涼に古町訪ねたくなりし
着音はムソルグスキー心太(ところてん)
 ReDel
Name 管理者
七月句

バランスの崩れし舟や雷鳴す
打水を何度やつても落ち付かず

御陵(みささぎ)の湖(うみ)に生れる黒揚羽
もろともにただ鷺草は揺るヽのみ

静かなる湖面の舟の涼みかな
湖涼し集落はただ寝静まる

夕焼けて牧夫ふたりの影の濃し
夕焼けていよいよ赤き牧舎かな

かの人もまた聴きしかと蝉しぐれ
ヴァヰオリン投げ出してゐる露台かな

ジュモーてふ古人形や夏舘
蝉しぐれ記憶流してしまひけり

雨空の鬼灯市となりしかな
風鈴の音の行方は定まらず

ベランダに死骸の多き蝉を掃く
毛虫焼くことに忍びず戸を閉める

青き靴をどり子かなしラムネ飲む
遠き舞台プリマの汗の匂ふかな

香水の似合ふ女に生れたし
残り香の有りし扇子をたヽむのみ

水中花よりも奇麗と言つてみる
水中花病む身で有ればなほ嬉し

ビール注ぎ単身赴任と笑ふ友
西日受け買物袋母と子と

風呂上り団扇の図柄気にならず
ささやかに団扇を使ふ古舘

山荘に髪を洗ひて寝てしまふ
お中元いろいろ迷ひ券にする

水喧嘩そのたび転居とはいかず
調停の話まとまり道涼し

縁将棋西日を受けて投了す
虫干の本の書き込み幼くて

雷光の間合ひ段々ちぢまりて
落雷に青ざめし子の虫歯見ゆ

七夕や筆まめなるは母譲り

七夕に叶ふことのみ願ひけり
七夕は心斎橋とメール打つ

二、三人、橋かけ行くや小夕立
馬の背を降り分けてゐる夕立かな

土匂ふ大夕立になりにけり
花合歓や身よりなき娘を預かれり

帰省子の口紅少し濃くなりて
氷菓食ぶ去年と違ふ娘のしぐさ

句座果ててメロンジュースを断れず
メロン切る甘き罠とは知りながら

夏館自然にネクタイほどかれて

宿浴衣ひごろの人と思はれず
大胆な浴衣の絵のみ眼に残る

もの言ふが如き二人の日傘かな
石段を登る日傘や僧の待つ

片陰の無き歩道橋見上げけり
梅雨あけて早くも痩せてしまひけり

夏柳ゆれて川風ひる飯屋
うなぎ屋に行列できて席を立つ

ビアホールうすきスカーフ重ね巻く

Eメール受信送信夏館
籐寝椅子よき事のみを思ひ出す

まほろばの景色かはらぬ雲の峰
峠経て見返るところ月見草

ふんすゐに風ある駅に戻り来し
田舎町ふんすゐさらばコイン投ぐ

ふんすゐや細面なる師を偲ぶ
夕凪の赤きポストに戻りけり

岩清水いつの間にやら人だかり
生水と言へど清水の旨きかな

大滝をすぎて小滝に手をひたす
どこやらで鳥も鳴きゐて清水汲む

分校の跡もとどめず月見草
花茣蓙に腕白坊主模範生

建てかけのビルそのままや月見草
滝音や浅き眠りの旅のやど

禅僧の講話の席や蟻の這ふ
禅寺の和尚と話し軒涼し

坊守の一間ぐらしの竹夫人
浅漬の茄子うつくしくさりげなく

たのしんで買ふものの無き夜店かな

浴衣着て病人らしく見えずあり
風鈴の南部の鉄の響きかな

夏霧の晴れて賑ふ海の市
祖父倒れ店閉めてゐる千日草

鷺草のときどき揺れて理髪店
大店の酒屋の土間の涼しかり

ここかつて街道筋と水を撒く
わざものを鍛へる人の玉の汗

もの忘れ激しくなりて汗を拭く
冷房を感じぬほどにバッハ聞く

夏風邪を理由に出来ぬ仕事かな

沙羅の花いのちを削るほども無し
屋久杉と銀河のほかに我要らず

ハンカチの二、三枚では足らぬ夜
絵手紙の色の滲みや夜の秋
 ReDel
Name 管理者
六月句

俤の浮かぶばかりの蛍狩
ほうたるや人は生き死に生き別れ

馬車で行く黒南風の街よどみたる
黒南風に球児のバット折れにけり

お社や江口の君の花あやめ
たそがるヽ事を知りてふ花あやめ

黒南風や冥き社に願ふこと
花南瓜ゆれて首振る影絵かな

洋館をつぶす計画えごの花
鈴蘭の淡き香りと時刻表

たそがれのながき時間や濃あぢさゐ
忘れたること思ひ出す濃紫陽花

額の花いくとせ経たる色街に
高原の夏うぐひすや恋を鳴く

鎌倉の雨に出会ひて濃紫陽花
あぢさゐの色移ろひて無人駅

旅戻るとき何色や濃あぢさゐ
あぢさゐを育てる人の子沢山

花石榴いまさら恋はいたすまじ
蘆切に心細きや櫓の動き

箸にさへ梅雨の重みのありにけり
通勤の人きむつかし走り梅雨

玉葱を刻み不眠を癒しけり
玉葱をきざみ胃の腑のほぐれけり

朝曇り帽子の人も傘を持つ
角帽の小学生や走り梅雨

走りつゆ終電車には忘れ傘

うす紅の葵見えたる路地の奥
花嫁や六月なれば潮来舟

栗の花少しの秘密知つてをり
栗の花長き房なり風匂ふ

緑陰といふほどもなき晴間かな
梅の実や今まう少し太るまで

魚梁(やな)さして隣の人とうち解けし

青桐の花の黄色や街の角
漁師町蜜柑の花の濃く匂ふ

鯒(こち)さばき伊万里青磁の馳走なる
鯒食ふや奄美の砂糖黍畑

初鰹土佐の名酒も添えてあり
初鰹酒の相手は古女房

仏蘭西の人形かすか黴香る
時計やや遅れてをりぬ黴の宿

本郷の下宿を訪へば黴匂ふ
黴くさき亡母(はは)の二十歳の日記読む

梅雨入つて犬と同時にくしやみする
兄弟の一目でわかる夏帽子

短夜や秒針合はす水時計
田植唄はづみし頃の丹波かな

天城の湯眼になぢむもの竹落葉
湯の宿の階段きしみ河鹿かな

河鹿笛音色変へつつあちこちに
かじか宿徳利の数の増えてゆく

宇治川にほうたる集へ頼政忌
竹落葉子守唄みな哀しくて

ほそ蓼のさう辛く無し也有(やゆう)の忌

マンドリン弾く六月の風さびし
古きドア開けて男の夏帽子

古書店を出てまた入る夏帽子

白夜へと置かれた侭の夏帽子
夏帽子ひとり立ち飲みして去りぬ
 ReDel
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